社員の能力を最大限引き出すよう、様々な部署を経験させるジョブローテーションは近年多くの企業で取り入れられている制度です。
社内の様々な部署で経験をすることで、一つの部署に長くい続けるよりも経験値を積むことが出来るジョブローテーションですが、実際に取り入れるとなるとどの様な点に注意するべきなのでしょうか。
今回はジョブローテーションを導入する際に注意すべきポイントや、得られるメリットについて詳細を解説していきます。
ジョブローテーションとは?
ジョブローテーションとは、社内の一つの部署で固定した働きをするのではなく、作為的に様々な部署へ移動させる制度です。
よく人事異動や社内公募と混同されがちですが、人材育成を目的としており、計画的に社員の職場や職種を変更することです。
経済成長の時代は、新しい支社や部門が次々立ち上げられたので、ジョブローテーションによってそれをカバーする側面もあり、便利な制度として使われていました。
しかし、基本的に現在行われるジョブローテーションの対象は、「新卒採用者」または「幹部候補生」です。
ひとつの環境で社員を成長させるのではなく、様々な環境で仕事をすることで《スキルアップ》《知識の蓄積》《お互いの仕事のカバー力の向上》などを狙いとしています。
また、新入社員のうちから長い時間をかけ、社内事情の理解やさまざまな人脈経験をつませることにより、経営幹部を育てていくという背景もあります。
ジョブローテーションの目的とメリット
ジョブローテーションは社員の育成に非常に良い制度で、主に以下のようなメリットがあります。
視点が多角的になる
社内の様々な部署で経験を積むことで、物事を見る視野が多角的になります。
外部で見ているだけでは理解できない部署の内情や、業務を通して今まで得られなかったスキルを身に着けたりと、多くの部署を異動することで一つの部署にい続けるよりも多くのスキルやアイディアを吸収することが出来ます。
そのため、ジョブローテーションを行うことで、社員ひとりひとりの能力や任せられる業務が増え、ひとりあたりの生産性やパフォーマンスが大きく向上します。
社内の交流が広がる
仕事を進めていく上でチームワークや社内での連携は必要不可欠です。
ジョブローテーションを行い多くの部署で経験を積むことで、社内のネットワークが構築されます。
一つの部署にいる場合、同じ上司、同期と仕事を続けますが、他部署へ移ることで新たな人脈が社内で形成されます。
結果として、部署をまたいだプロジェクトや大人数で行う案件などに取り掛かる際、社内のネットワークを活かし円滑に業務を進めることが出来ます。
自分の適性に気づくことが出来る
ジョブローテーションを行う企業の中で、社員の適性を見つけるために導入している企業も多く存在します。
例えば営業部に所属しているものの、実はアイディアやクリエイティブ能力が高い社員の場合、企画部や制作部など他部署で力を発揮できることでしょう。
そこでジョブローテーションを行い、多くの部署を経験していくうちに、自分や社内で気づかなかった適性や、新たなスキルを発見することにも繋がります。
その他のメリット
新入社員の適性を見極め、適性にあった部署に配属できる
部署と人との雰囲気や適性を見極めることで、はじめからのモチベーションが低く仕事をスタートさせるような心配はないのではないでしょうか。
人材の確保がしやすい
さまざまな部署を一括で採用するため、人材の確保ができる。
急な社員の退職時に速戦力になりやすい
いろいろな経験を積んでいることから、1から学ぶのではなく、土台があった上なので、急な退職などでも業務が滞ることはなく、円滑に進められる。
視野・経験値が広くなる
(・望む異動であれば、モチベーションUP)
ジョブローテーションのデメリット
メリットの多いジョブローテーションですが、逆にデメリットとなるポイントも複数存在します。
専門性が身につかない
多角的に多くのスキルを得られるとういことは、裏を返すと一つの専門性に特化出来ていないということです。
そのため、ジョブローテーションで数年おきに転部を繰り返すことで、何か一つの専門性を身につけることは難しいと言えます。
多くのことを平均的にこなせる社員を育てることが出来ても、何かのプロフェッショナルとなる人材を育てづらいことがジョブローテーションの欠点と言えます。
社員の希望に添えないことがある
本人の希望を考慮できる場合は良いのですが、希望を考慮できない中でのジョブローテーションは、社員のモチベーションの低下につながってしまいます。
企業側としては多くの経験を積んでほしく、様々な部署を経験させようとしますが、社員が希望していない部署に配属されてしまうと、そもそも仕事への意欲が低下する可能性もあります。
そのため、ジョブローテーションを行い中長期的に社員が望んでいない部署に配属しなければならないことは、大きなデメリットと言えます。
異動後は新人状態に戻る可能性がある
他部署へ移り仕事を始めるに当たり、業務以前に部の体制や基本的なスキルの取得のための研修・教育期間が必要なケースがあります。
社内での勤務年数に問わず、初めての部署に移るのであれば、はじめのうちは新人同然でゼロからスタートを切らなければなりません。
そのため、ジョブローテーション後の数週間は、戦力としてカウントできず、研修期間が必用なケースがあり、業務のスピード感が鈍くなってしまうこともあるでしょう。
ジョブローテーション導入のポイント
実際にジョブローテーションの導入を検討しているのであれば、社員の勤務年数やクラスによってポイントが大きく変わります。
新入社員
新入社員クラスのジョブローテーションでは、社内の仕組みの理解や適正判断を行えるようなジョブローテーションが理想です。
そのため、各部署ごとにメンターやOJTを導入し、新入社員が精神的に安定できるようフォロー体制も整えておきましょう。
また、まだ適正がわかっていない新入社員の場合、多くの部署を経験することで適正を早く見つけることが出来る事ができるため、短期間でのローテーションも検討する価値があります。
中間層
中間層のジョブローテーションの目的は、リーダーとしてのスキルやマネジメントの基礎を鍛えることが挙げられます。
そのため、将来管理職になった際に必用なリーダーシップや管理能力を身につけるため、配属先で新しい役割を任せることがおすすめです。
また可能であれば少数のチーム運営を任せ、管理能力の基礎を身につけられる環境を用意することも良いでしょう。
管理職
管理職の場合、次のビジョンが経営層へのジョインや会社を担うポジションへ就くことが挙げられます。
そのためローテーション先として、より経営層に近い仕事ができる環境や、会社全体のビジョンに関わる部署へのローテーションが望ましいと言えます。
場合によっては支社を一つ任せたり、海外支部へ数年間移動させるなど、規模が大きく時間のかかるジョブローテーションも有効です。
ジョブローテーション導入企業割合
労働政策研究・研修機構(JILPT)の2017年調査の結果によると、ジョブローテーションの導入割合は企業規模によって以下のような違いがあります。
- ・300人未満:37.3%
- ・300~499人未満:51.3%
- ・500~999人未満:57.2%
- ・1000人以上:70.3%
人数が多いほどジョブローテーションを導入している企業が多く、1000人以上の企業の7割がジョブローテーションを導入しています。
企業規模が大きいほど部署も多く、ローテーション先が多いため、より多くの経験を積むことが出来ることから、人数の多い企業のほうが、ジョブローテーションのメリットを最大限活かすことが出来るでしょう。
ジョブローテーションを導入すべき企業
企業規模が大きく、人数や部署の数が多い企業はジョブローテーションの導入に適しています。
特に、業務を縦割りし細分化している場合、他部署で何をやっているかわからず、自分の部署のスキルしか身につかない傾向にあります。
そのため、多くの部署で異なる業務をしている企業であれば、ジョブローテーションを導入し、様々な部署を社員に経験させることによって、社員一人の能力値を高めることが期待できます。
企業事例
ジョブローテーションが上手く機能し、良い事例として総合商社の双日の例が挙げられます。
双日では新卒入社後10年間と、決まった期間でジョブローテーションが設定されており、この10年間で多くの部署を経験させます。
また、戦略の意向だけを押し付けるのではなく、社内公募なども行い、部署を異動することで成長が見込まれる場合、社員の希望する部署へジョブローテーションをすることも出来ます。
このように、社員の希望と戦略の中間を上手く意識したジョブローテーションを行っている双日の例は、成功例として取り上げることが出来るでしょう。
スタンダードなジョブローテーション
ある一定の期間で部署間の移動を行います。実施する目的によって、期間は異なります。
新卒学生の社内を知るためのジョブローテーションであれば、3週間程度の期間で部署を変更したりします。
「社内全員が顔見知り」の環境づくりを初期の段階ですることで会社の風通しのよさをアピールできるのではないでしょうか。
自己申請型
一般的なジョブローテーションは会社からの辞令で実施されますが、社員自ら「この部署に移りたい」と希望するパターンもあります。
「本当はこの部署がいいのに、、」言いづらいところを「ジョブローテーション」という言葉を借りてであればいえる可能性も、、、!
違う部署への異動でモチベーションの向上やスキルアップも見込めるのではないでしょうか!
ジョブローテーションと退職リスク
先述でも触れたように、希望しない部署に配属された場合、ジョブローテーションが裏目に出て退職につながってしまう事も懸念されます。
実際に希望しない部署へのローテーションが退職理由に直結するケースもあるため、ある程度本人の希望はヒアリングをもとにした異動先を用意する方がベターと言えるでしょう。
そのため、人事戦略と社員の希望のちょうど真ん中に位置するローテーションを心がけて下さい。
まとめ
ジョブローテーションは、上手く行えれば一人の社員が多くのスキルを身に着け、仕事の幅がひろがり社内の生産性が上がるため、多くの企業で導入されています。
ただ、一方で社員の意向に背いたローテーションは退職につながるリスクがあるため注意が必要です。
メリット・デメリットをうまく攻略し、社内が盛り上がるようなツールのひとつとして「ジョブローテーション」を利用してみてください!
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